So-net無料ブログ作成

第1話「帰省」 [オリジナル小説「キセイ」]

第1話「帰省」

『ドタキャンって、どういうことなの? ねぇ、理由くらい教えなさいよ!』
「わりぃな、でも後にしてくれ! もうじき新幹線が出ちまう」
『ハァ? なんでシンカンセンなワケ? ひょっとして、今同じ駅にいるの?』
「そうだ! 急いでるからそろそろ切るぞ」
『アタシは理由を聞いてんのよ! だから何でデートすっぽかして新幹線に乗ろうとしてんのよー! ふざけんな!』
 キィキィわめくガールフレンド的な意味での彼女にひたすら謝って電話を鞄に仕舞いこむと、俺は幕の内弁当とペットボトルほうじ茶の入ったビニール袋を携えて白地に青や赤のラインを引いた車両に足を踏み入れた。真夏のうだるような湿気を追いやったシートに座り込んで一息つくと、現在進行形でおいてけぼりにされている彼女に短い謝罪のメールを送りながら心の中で頭を下げた。彼女は付き合って二年くらいになる同じ大学生で、普段はしとやかな女性なのだが一度キレると暫くおさまらず暴言を罵り続けるのが欠点だ。根は良い奴なので随分悪いことをしたと思っている。今度穴場のカフェか何かに誘って美味いイタリアンでもおごってやろう。
 俺が急いでいるのは何を隠そう弟のことについてである。弟とは最後にあってから半年くらい経つだろうか。俺は勉強やサークル、ボランティアなど様々な理由で帰れなかったり帰っても会えなかったりしていたが、弟はそれでもどんどん悪化する腫瘍と格闘しながら何とか生きながらえていた。それからの今の状況。今朝母親から電話があり、「容体が急変した」とかなり慌てた口調でまくし立てるもんだから俺も仰天して大学にほど近い現住所から財布と電話と学生証だけで飛び出し、今は実家に向かってレールの上を爆走している。
「どうなってんだ……一体どうなってんだよ……」
 クーラーの効いた車内で震えながら俺は誰にも聞こえないような小さな声で知らず知らずのうちに呟いていたのだった。

 新幹線を降りると俺はタクシーを使って地元の大きめの病院へたどり着き、蝉が天命を謳歌している真昼の中庭を駆け抜けて、弟の病室へと息の続く限り駆け上がった。そうしてようやっと着いたのは先月移されたという棟の角にある個室。個室に入る、ということは誰もが薄々気づいているかと思うが、本当にヤバくなったという印である。
「健人ッ!」
 白い横開きのドアを乱暴に開けた俺の目の前に現れたのは、




 真っ暗な部屋の中に浮かび上がる白い布を被った弟の冷たい身体―――ではなく、

 騒がしい雰囲気で医者やら看護師に囲まれて人工呼吸をされている光景―――でもなく、

 血や食べた物なんかを端から吐いてもいなければ狂気に近い声を発して暴れてるようにも見えない、



「あれ、兄さん? なんでここに」



 憑き物が落ちたかのようにケロッとした顔で俺を迎えた元気そうな弟の姿だった。
 しかも、幾度となく見てきた中で一番血色のいい顔をしている。最後に眠る姿を見たときは肌が白すぎてこのまま剥製にでもなるかと思ったくらいだったのに。
 これは何かの幻覚か? それとも夢なのか? 真夏の夢は夜に見るもんだぞ、出てこいよモーツァルト。今すぐ謝罪会見開け。
 脳内パニックを起こしている俺の方にそっと手を置いたのは友人の坂山龍治である。保育園時代からの付き合いで、高校を卒業したあとは実家の陶芸品店と地元の自動車工場で働きつつ健人の見舞いに何度も訪れているというのは本人のメールから知っている。
「驚くのも無理はない。俺も仰天したさ。健人本人ぐらいさ、この状況にビビッてねぇのは」
 話題の人物はにこやかにほほ笑み、お土産はないのかとか当たり障りのない会話を始めている。
 坂山の用意したパイプ椅子にへなへなと座り込みながら俺は頭の中を必死になって落ち着かせていた。



更新が遅くてすんません。
こちらもいろいろあるんでっせ旦那。
というかなかなかPCに打ち込む時間がない。うにゃー。

ようやくいろいろ名前が出てきましたね。
次の回でようやく主人公の名前が明かされます。本人は嫌がってるんだけど出さなきゃはじまんないからと言って縛り上げたら許可貰ったよ!

では次回!
nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 2

コメント 2

フィソロフィ

これからどうなるか楽しみでさぁ旦那。←
by フィソロフィ (2012-05-08 02:38) 

梨丘 紡

楽しみにしててくれ。

ここ数日はわけあってブログの更新自体なくなるけどよろしく。
by 梨丘 紡 (2012-05-08 16:04) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。